マッピング・ファンタジー

「本格マッピング・ファンタジー」をうたう『星図詠のリーナ』読了。僕にはちょっと難しいジャンルかな、と思っていたが、一気に読んでしまった。

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第三妾妃の子であり第五王女のリーナは、子供の頃から地図が大好き。そんなリーナの地図好きは、ネットの世界でさらに加速した。

初めてのWebマッピングは、Web地図サービスGoggle Maps上でポイントを落としたこと。自分のお気に入りが地図上で表示され、見知らぬ人から沢山のコメント。これには王宮暮らしのリーナは大喜び。
やがてこれだけでは飽き足らなくなり、APIを駆使してマッシュアップを始める。この事は「共有する」素晴らしさや大切さ、楽しさを肌身で感じる貴重な経験となる。


第五王女である実生活とは違い、遠慮のないネットの世界(ネカマ騒動で炎上も体験)。そこで国民の本当の想いを知ったリーナは、自ら地図を発信することを決意する。

早速調べるとFOSS4Gというフリーでオープンなソフトウェア群を知る。これはすごいと興奮するリーナ。地図や地理情報に関することは、FOSS4Gで賄えると判断、実行に移した。


リーナは理想的で大きなシステムより、今ある技術で実現可能な、実効性の高い手立てを選んだ。何故なら、国民の気持ちを知っていたから。王立地理院の独自システム「電子領地」で配信中の「2万5千分の1地誌図」を拝借、MapServerを使ってWMS配信を始めた。

地図アプリケーションでダイレクトにWMS配信を受ける層は、驚きと喜びでこれを迎えた。鎖でつながれいた「2万5千分の1地誌図」が解き放されたのだ。今まで考えもつかなかったアプリケーションも開発され、地図の新しい使い方も生み出された。
そしてGeoWebのギーク達。WMS配信で受けた地図画像をOpenLayersで仕立て直し、独自の地図サービスを競い合う。地図ブームはさらに加熱、新たな段階に入る…

かくしてWMS配信は王立地理院の正式なサービスになった。また「電子領地」はOpenLayers実装となり、地図サイトの標準的存在になる。


父である国王に業績を認められ、王立地理院長を拝命したリーナは、あらゆる業務でFOSS4Gを積極的に採用。
すべての地理情報は、PostGISで構築された基幹データベースに格納して一元管理化。問題化していた地理情報の離散が解決に向かった。
また執務ではQuantum GISがプレゼンツールとして大活躍。リーナを快く思わない臣下も、きれいにビジュアライズされた説得力のある地図の前には、何も反論もできない。
もちろんGRASSを使った自身の研究は、毎日欠かさず続けている。


そんなある日、リーナは埃にまみれた技術資料を見つけた。表紙には"SVG"と記され…

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という物語ではなかったが、「剣と魔法」の世界で、地図づくりが好きな王女という一風変わった設定。

測量は伊能忠敬方式、歩測も使って地道に計りまくる。時にはオープンストリートマップ的な手法も。

  • 正しい徴税には、正確な地図が不可欠
  • ハザードマップや地理教育の重要性
  • 地図サービス、情報共有の大切さ
  • 地図づくりは、時間とお金がかかる事業

などを、随所に盛り込みつつ物語は進む。地図づくりは物語の小道具では決してなく、十分に練りこまれている。
でも購入前には、ライトノベルファンの書評を読んだほうがいいです。


同時に購入した「地図中心6月号」。特集は「これでよいのか国土の記録!日本の地形図が変わる」。
実に難しい問題。こちらはこちらで、剣と魔法の世界だ。


しかし地図中心、デザインはともかく禁則処理ぐらいはして欲しい。